肺結核

肺結核の特徴

肺結核は、咳やくしゃみの中にいる結核菌を吸い込むことで感染します。本来なら人体に備わっている免疫機能により、仮に結核菌が体内に侵入してもすぐに排除されますが、何らかの原因でこの免疫力が弱まっていると、結核菌に感染します。実際には、結核菌に侵されても、発病をする人は10人に1人程度と言われています。
日本は世界の中でも比較的結核患者が多い国で、以前は中蔓延国と位置付けられていましたが、近年では徐々に患者数が減少し、2022年からは低蔓延国となりました。肺結核は決して高齢者のみがなるわけではありません。

肺結核の主な症状

肺結核の主な症状は、2週間以上咳が持続する、体重が減る、だるさが続く、血痰が出る、多く寝汗をかく、発熱が続くなどになります。ただし、高齢者など一部の方では明確な症状が出ないこともあり、普段と比べて何となく体がだるい、軽度の咳が長く続く程度のこともあります。

肺結核と診断するための検査

胸部エックス線検査や胸部CT検査によって空洞影やつぶつぶとした粒状影が確認された場合は肺結核である可能性が高いため、喀痰検査を行った上で診断を確定させます。CT検査が必要な場合は連携する医療機関をご紹介します。結核菌の有無を調べるための痰検査は、1回では結核菌が検出されないこともあるため、3回行うことがあります。結核の場合、血液検査では、クオンテフェロンやT-SPOTが陽性となります。以前はツベルクリン反応検査が行われていましたが、この検査は現在はほとんど実施することはありません。
喀痰検査では、塗抹検査、培養検査、核酸増幅(PCR)検査の3種類を行い、これらの検査結果に基づいて総合的に結核の確定診断を行います。
塗抹検査とは、特殊な染色液で結核菌を染めて顕微鏡で観察する、チールニールセン染色という検査になります。結果は1時間程度で出ますが、あまり検出率が高くないという弱点があります。また、この検査は非結核性抗酸菌でも陽性となるため、結核の解釈が難しいという難点もあります。
培養検査とは、痰の中に含まれる結核菌を、特殊な培養液を用いて数を増やして検出しやすくする検査です。結果が出るまでは数週間〜2か月程度の期間を要します。
核酸増幅(PCR)検査とは、痰の中に含まれる結核菌のDNAを検出する検査で、結果は半日〜数日間で出ます。ただし、すでに死んでいる結核菌も検出してしまうこともあるため、肺結核が治癒した状態でも陽性反応が出てしまうことが弱点です。

肺結核の治療方法は?

結核菌の治療は、一種類ではなく薬剤機序の異なる治療薬を複数組み合わせて行います。1種類の薬のみだと、結核菌がその薬に対して耐性を持ってしまい、次第に薬が効かなくなることがあるためです。一般的には、治療開始から最初の2か月目までは、リファンピシン、イソニアジド、ピラジナミド、ストレプトマイシン、といった4種類の抗菌薬を用いて内服治療します。次の4か月間は、リファンピシンとイソニアジドに切り替え、内服治療を継続します。なお、ご高齢の患者さんの場合は、3種類で治療することもあります。また、イソニアジドという薬はビタミンB6を低下させる作用があるため、ピリドキシンという薬を使ってビタミンB6を補充します。
結核治療薬は、副作用が出るものも多いため、治療初期(数日〜2週間)は慎重に経過観察する必要があります。ご高齢の場合は副作用が出やすい特徴があるため、特に注意が必要です。もし副作用が現れた場合は、薬の量を減らしたり、中止したり、場合によっては他の薬へ変更することもあります。また薬同士には相互作用があることもため、新しい薬を使用する際には、必ず相談するようにしてください。なお、リファンピシンを内服すると、尿、唾液、涙の色がオレンジ色に変わりますが、これは人体に悪影響が出ているわけではありませんので、ご心配はいりません。
また、喀痰の塗抹検査で陽性だった方は、感染の可能性があるため隔離入院を行う必要があります。隔離入院は、喀痰塗抹検査が陰性になるまで継続します。

結核に関する制度と
医療・福祉サービス

外来で治療を受ける結核患者の自己負担額は5%です。残りの95%は、保険者と公費で負担します。
また、入院で治療を受ける結核患者の場合は、都道府県知事が入院治療費を全額負担します。(一部例外あり)
結核により休職を余儀なくされた場合は、傷病手当金の申請を行うことが可能です。病気や怪我で仕事を休んだ期間は、1日につき標準報酬月額の2/3の額が支給されます。

潜在性結核

多くの人は、結核菌を吸い込んで感染しても、体内に備わっている免疫機能により結核菌を殺してくれますが、中には体内で生き延びて後に活動を再開することがあります。これを潜在性結核感染と言います。
潜在性結核の方の特徴は以下となります。

  • 無症状である
  • 結核感染性はない
  • クオンティフェロン検査やT-SPOT検査で陽性反応が出る

潜在性結核感染は治療を行っておかないと、後に結核症を発症することがあるため、発症リスクの高い方には早いうちに治療しておくことをお勧めいたします。
主な治療法は、イソニアジドという薬の内服を6カ月~9カ月間行います。もしイソニアジドが使用できない場合は、リファンピシンを4カ月~6カ月内服します。なお、潜在性肺結核の治療効果は6080%程度で、後に結核を発症する可能性を低下させることができます。